2012年2月26日日曜日

えっ、アメリカの公用語って英語じゃないの?

産経新聞 2月19日(日)20時6分配信
【大阪から世界を読む】

米大統領選共和党候補の指名を争うロムニー氏やギングリッチ氏が訴えていることがある。「英語を公用語に」という主張だ。まるで日本の企業のようなスローガンだが、英語は米国の今日的な問題なのだ。おりしも西部アリゾナ州で、全米の注目を集める「英語裁判」が行われた。英語問題は変わりゆく米国社会を映し出すとともに、今後の日本にも教訓をもたらしている。(坂本英彰)

スペイン語の町

ロイター通信などが報じたあらましは以下の通りだ。

舞台はすぐ南側がメキシコというサンルイス。人口2万5千人という小さな町だ。裁判は、市議選に立候補した女性、アレハンドリーナ・カブレラさんをめぐって行われた。

「彼女の貧弱な英語では職責を全うできない」

サンルイスの市長、エスカミラ氏が、カブレラさんの候補失格を求める裁判を起こしたのだ。

英語ができなくて米国民が選挙に出られないことがありうるのか。アリゾナ州には公職者に英語力を求める規定があるが程度の定めはない。可と不可の線引きはどうなるのか。珍しい裁判は、全米のみならず海外メディアの注目も集めることになった。

サンルイスは住民の9割がメキシコ系で、多くの住民はスペイン語を話す。カブレラさんは米国生まれだが長くメキシコで暮らし、米国に戻って高校を卒業した。2児の母で日常生活は選挙活動も含めもっぱらスペイン語だ。活発な市民運動家でもある。

「話せるし読むことも書くこともできる。私の英語は完璧じゃないが、サンルイスでは十分よ」

だが、この地域を管轄するユマ郡裁判所に出廷した彼女は、出身校についてたずねる簡単な質問にも返答に窮してしまった。

裁判長は、専門家にカブレラさんの英語力の調査を依頼した。

■サバイバルレベル

ブリガムヤング大学の言語学者、ウィリアム・エギントン教授が面会してカブレラさんの会話や読み書き能力を調べた。日本人が受ける英語テストの要領だ。

出た結果は「サバイバルレベル」。日常生活は何とかなるが、議員活動に必要な水準には遠く及ばないという判断だった。判決は1月末にあり、エスカミラ市長の訴えを認めカブレラさんを候補者名簿から削除することが命じられた。

インターネット上には、カブレラさんの動画映像もある。強いスペイン語なまりで、とつとつと話している。ネーティブならまだしも、日本人にはかなり手ごわい英語だ。

カブレラさんはメディアに対し、法廷で返答に窮したのは「初めての裁判で頭が真っ白になった」からであり、エギントン教授はオーストラリア出身でなまりが強く聞き違える単語もあったと訴えている。

■パンドラの箱

判決に納得できないカブレラさんは州最高裁に上訴したが、2月7日に下った判決も1審判決を支持した。カブレラさんの弁護士は「ヒスパニックへの差別で知られるアリゾナの評判をさらに落とした」と判決を厳しく批判した。

実はカブレラさんとエスカミラ市長は裁判以前から仲が悪い。カブレラさんは水道料アップや職員解雇をめぐり、2度も市長の解職請求(リコール)運動を起こしていた。政敵排除の思惑は否めないがメディアが注目したのは英語だ。エスカミラ市長は、ニューヨーク・タイムズに「パンドラの箱をあけてしまった気分だ」と、あまりの注目ぶりに戸惑いをみせた。

■米大統領選の「隠れた争点」

英語は大統領選挙でも主張される、米社会の主要論点のひとつだ。とりわけ伝統的な価値観を重視する共和党は英語の擁護者。各候補ともニュアンスの差はあれ、公用語化には肯定的な立場だ。

1月の討論会では、こんな場面もあった。

「いったいこの国をどうやってまとめるのか。いまやシカゴでは200もの言語が話されている。共通の絆は何なんだ」

ギングリッチ氏が英語の公用語化を強く訴えると、多くの論点で火花を散らすロムニー氏も「全くその通りだ」と引き取り、「英語ができないためにきちんとした仕事にもつけず、アメリカンドリームが制限されるというような人がいては困るのだ。英語はわが国の言語だ」と訴えた。

■英語公用語は31州

米国は連邦レベルでの公用語規定はない。かつては規定の必要もないほど英語の優位が際立っていたが、1980年代以降、メキシコ移民などヒスパニック(中南米系)が急増し、第2言語といえるほどにスペイン語が流通し始めた。不法移民も多いが、ヒスパニックの増加は著しい。2010年の国勢調査では約5千万人と10年で1・5倍近く増え、いまや人口の約16%を占めて黒人を上回る。

英語公用語の推進団体「プロイングリッシュ」によると、何らかの形で英語を公用語としている州は全米50州のうち31州。ほとんどは1980年代以降の制定だ。

公用語化を唱える候補者ももはやスペイン語を無視できず、キューバ移民などが多く、1月31日に行われたフロリダ州予備選に際し、ロムニー氏はスペイン語の広告を打ち、ギングリッチ氏はサイトを設けた。

「矛盾だ」という批判に対し、ギングリッチ氏は「選挙ではわかるように伝えるのは当然。ヒスパニックの支持も得たい」と反論したが、スペイン語の存在がいかに大きくなっているかを如実に物語るエピソードでもある。

■先駆は日系人

英語公用語化の運動は一見、主流派の白人によるヒスパニックへの防御反応に見える。しかし先駆者はサミュエル・ハヤカワ(1906~92)という日系2世の上院議員だった。

ハヤカワは81年、共和党上院議員として英語を公用語にする憲法修正法案を提出した。目的を達成できなかったハヤカワは運動を続けるロビー団体「USイングリッシュ」を設立。同団体はいまや180万人(公称)のメンバーを抱え、その他にも多くの団体が活動している。

カナダ・バンクーバーに生まれ米国に移ったハヤカワは著書「思考と行動における言語」で知られる言語学者。サンフランシスコ州立大学学長も務めた立志伝中のひとで、1期だけ上院議員を務めた。

「個々人がバイリンガル(2カ国語を話せる人)であるのは何の問題もないが、国家がそうであっては困る」

それがハヤカワの主張だ。

■87%が賛成

では、英語公用語化について、一般の米国人はどう思っているのか。驚いたことに、世論調査でみると圧倒的多数が賛成という結果が出ている。

世論調査会社ラスムセンの2010年の調査によると、87%が英語を公用語にすべきだと回答した。共和党の指名争いを受けてCNNがインターネット上で行った調査でも、83%が賛成という結果だ。「米国は多言語の要求に応えるべきだ」という積極的な反対は7%に過ぎなかった。

英語公用語化運動には、「人種差別的」という批判が常につきまとってきた。英語をうまく操ることができないのはヒスパニックやアジア系など遅れて米国にやってきた人たちだからだ。ところが「差別される側」に強く英語公用語化を求める人々がいるという事実は、重く受け止める必要があるだろう。

いまUSイングリッシュの代表を務めるのはチリ移民1世のマルオ・ムジカ氏だ。英語習得の苦労と、それが実現した結果を身を以て知るムジカ氏は今月、FOXニュース(電子版)に寄稿してこう訴えている。

「英語ができず米国に住むことは低賃金労働者として生きることだ。英語なくして十分な社会貢献もできないし、民主的なプロセスにもきちんと参加することはできない」

■他の言語をどこまで受け入れるか

言語政策は米国にとどまらない問題だ。英国は2010年に欧州以外の移民希望者に対する英語試験を義務化し、ドイツにも同様の制度ができた。メルケル独首相は自国がとってきた移民政策を自省し、キリスト教的な価値観やドイツ語の習得を強く訴えている。

日本でもグローバル時代への対応で英語を公用語にする企業が現れる一方、当たり前の存在だった日本語に対する関心がいままで以上に高まっている。

言語は文化やアイデンティティーと密接に関係しているだけに、時に軋轢(あつれき)を生むこともある。

たとえばかつて関西弁は国内の他の地域で受け入れられないことが少なくなかったが、メディアに乗っていまでは全国区になった。大阪・岸和田を舞台にするNHKの連続テレビ小説「カーネーション」でどぎつい言葉が飛び交うのも、関西弁の普及という下地があってこそだろう。

方言との対比は飛躍しすぎかもしれないが、他の言語をどう受け入れ、主要な言語との関係をどう位置づけるのかは時に難しい。米国で起きている現象は決して他人事(ひとごと)ではない。

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この記事を見て驚いた。
英語はアメリカの公用語だと思っていたからだ。
しかし、実際はスペイン語の勢力がどんどん強まっていることを知った。
アメリカは多種多様な人が住む国家なのだから、公用語を英語一つとしなくても良い気もするが…
でも、記事中にあったように移民としてきた場合、その国の言葉を話せなければ最低賃金しかもらえないというのは真実である。
誰もが自由と成功を手に入れられる国、アメリカだが、様々な条件のもとでこそのようだ。

By MT

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